05話 嫌いなものは嫌い!
時計の針がちょうど12時を指す。
グルルルルという凄まじい音と共にドアが開かれた。
目の前には、すっごくグラマーなお姉さんと太っちょの男性。
その二人曰く、試験内容はどうやら料理だという…。
「ま、まじで?」
「どうかしたの?」
ゴンが心配そうに青ざめていた私を覗き込む。
「まさか料理できねぇとか?」
「ぐっ!」
キルアに確信をつかれた私は、一気に動揺が隠せない。
「マジ?」
「うるさい!うるさい!」
別に、出来ないわけじゃない。ただ、嫌いなだけ。
「まぁ、人間誰にでも苦手な物くらいあるさ」
「気にすんなって。」
「クラピカ~、レオリオ~!」
なんて、優しいんだ!二人とも!!
「苦手ねぇ…」
「いい?キルア!私は出来ないんじゃないのよ!嫌いなの!」
「どう違うんだよ、それ」
「私だって練習くらい、したことあるのよ」
だけど…
「には、料理は向いとらんな」
って、おじいちゃんに言われたんだもん!!
その上、最後は「絶対に、もう厨房には入るでない。厨房が壊れる」と念を押されてしまった。
だからそれ以来、包丁は愚か、私はお鍋すら持った事がない。
「大丈夫!一緒に頑張ろうよ!」
「ゴーン!!」
君は私の天使だ。癒やしだ…!
「まー、どんだけ笑えるか見ててやるよ」
「キルアの意地悪!!」
そして、とうとう太っちょの男、ブハラのメニューが発表された。
「俺のメニューは、豚の丸焼き!」
豚の種類は自由。との事で、二次試験前半がスタートのゴングが鳴り響く。
「良かったね!捕まえて焼くだけだよ!」
「うん!それなら私にも出来る!」
豚なら、なんとか捕まえれそう…ん?
ドドドドドドド!!
「ドド、ド?」
パッと後ろを振り向くと、鼻が大きな豚の大群が押し寄せてくる。
「ぎ、ぎやあああああ!」
な、な、なにこれー!!
「ブオオオオ!!」
「ギャー!」
一匹の豚が私の方へ向かって突進。ちょっと、むかついた!この豚!
「こいつ…絶対に丸焼きにしてやる!」
逃げるのをやめた私は背中に抱えていたピコハンを構え、ただ思いっきり豚の頭を殴った。
「こんにゃろ!!」
ドゴォ!!
豚は一撃で倒れてしまった。
「やっと、一段落ついた」
「凄いや!」
「へっ?」
どうやら、さっきの私の攻撃を見てしまったらしいゴン達。
「(確かに、ただの女の子がこんな場所に来れるわけがないとは思っていたが…。あれは…)」
「やるじゃねぇか!」
「え。あ、ありがと」
別に私自身は隠してる訳じゃないんだけど…おじいちゃんの事がバレると、私がおじいちゃんに怒られる気がする。
あくまでもテストは公平。ハンター協会の最高責任者としての自覚もあるからかもしれない。 でも、どうせならこの話はいつか自分から皆にしたいな。
「あ、ほら!早く焼きに行こう!」
「そうだね」
「そうだよ!」
「んじゃー行くか」
私達はなんとか二次試験前半を乗り切ることができた。
豚の丸焼き料理審査 70名通過!
「ってか70頭食べきるって…」
「化けもんかよ」
「おかげで合格できたけどね」
「まぁねー」
たしかに、そうなわけだけど、次、本格的な料理だったら嫌だなぁと私がそう思っていた矢先に後半、メンチのメニューが発表となった。
「私のメニューはスシよ!」
す、し…や…やばい…。私、魚さばけない!!
「ど、どうしよう?」
「カタチが分からないと作りようがないよね」
「そうなの…って、え?」
か、たち?
「え?カタチ、って…皆、すし知らないの?」
「だから、周りも悩んでんじゃねぇかよ」
「ええ!なんで?!」
「ま、まさか、…」
「わ、私…」
「「知ってるの/かよ?!」
私は、ゴンとキルアに問い詰められた。 だっていつも美食ハンターの人に食べさせて貰えるもん。とは言えないけども…材料を教えるくらい、いいよね?
「知ってる!」
「!どんなの?!」
「何がいるんだよ?!」
「えっと、お米に「魚ァ?!」です…」
クラピカに聞いたらしいレオリオが、私が言う前に思いっきり大きな声で叫んでしまった。勿論、周りには、大バレ。
「レオリオの馬鹿!」
「全くだ」
しかし、魚か…。どうしよう?私、素手で触る事できないかもなぁ。だって純粋に、気持ち悪い!
どうやって捕まえようかと川のそばを行ったり来たりと、繰りかえし悩んでいた時、キルアの声が聞こえてきた。
「おい、馬鹿」
「馬鹿いうな!って、え?」
キルアは、私に魚の入ったバケツを突き出した。
「お魚?」
「やるよ」
「本当?!」
「嘘ついてどうすんだよ」
「いいの?ありがとう!」
「別に。すしのカタチ教えてもわなきゃいけねぇしな。賄賂だよ」
「あ、そっか。うん、いいよ。教える」
私は、キルアと一緒に会場へと戻った。
「さて、と」
確かに、カタチは分かる!ってか、知ってる。でも…。
「ごめん!キルア!私、魚なんてさばいたことないから、どうやって切ればあの形状になるのか分かんない!」
「まぁ、最初からアテにしてなかったけどな」
このままだと、確実不合格だ…。
「そんなの嫌!!」
私は、合格するために来たんだから!!帰って、美味しいもの作って貰うんだ! それにきっと不合格は…死を意味しているのよ!! いつもそうだった。確実にネテロさんの出したテストをクリアできない時の罰則は…いつも地獄だ。
「や、やれるだけはやらなくちゃ!!」
ガタゴトガチャーン!!
「ぎゃー!魚の目から内臓がでてきた!!」
「オワッ!危ねぇじゃねぇか!!」
「ごめんなさい!レオリオ!手から包丁がすっぽ抜けちゃって」
「…」
「だ、大丈夫なのだろうか?」
「ぶっ、アッハッハ!あー、おもしれー!」
「キルア、笑ったら可哀想だよ!」
「だって俺、あんなドジの奴、生まれて初めて見たぜ。ゴン」
キルアはどうやらツボに入ったらしく、大爆笑。
「だーもう!笑うな!!」
「だって、おもしれーもん」
こんなに笑ったの初めてかもな。と付けたして言うキルアに怒鳴りながらも私は、自分なりに作ったスシをお皿の上に置いた。
「失礼だっつーの!」
「ところで、」
「ん?」
「そ、それが?」
「うん。すしだけど?」
それは、すでにご飯だか魚だか見分けもつかない物体だった。
「えー…お前、それ生だろ。だれが食うんだよ。そんなもん」
「メンチさんに決まってるじゃない!」
「そりゃそうだ…でもなぁ…」
レオリオの不安通り、私はメンチさんに出したお皿をひっくり返された。
「食えるわけないでしょうがー!!」
「えーー!!」
私、頑張ったのにー!!
「食べる気失せるわ。あんた、どんだけ米を握り潰したのよ。シャリを潰さないなんて常識でしょ。そもそも切り方が違う」
「え」
「こんなおぞましいスシ初めて見たわ」
メンチさんに一刀両断にされた私はがっくりと膝を床についた。
「ゴン!私、頑張ったんだよ!」
「まぁ、そうだけど…」
「「あれじゃなぁ」」
「皆してひどい!!」
私の悲痛な声の後と共に聞こえてきた自信満々の声に皆が振り返る。
「どうだ!!これがスシだろ!!」
あー、そうそうあんな感じ!なんて私は、思っていたけども…。
「駄目ね。おいしくないわ!」
「な、なんだとー!」
おいしくない、と言われて腹がたったらしい受験生は、皆に大声でスシの作り方をバラしてしまった上に料理への罵倒を始めた。
勿論、美食ハンターであるメンチさんはそんな受験生の態度に対してぶち切れる。
「っせーよ、コラ!ハゲ!殺すぞ!」
大激怒だ…。
「あーらら」
スシの作り方がわかった受験生の皆は、メンチさんの所に大殺到だし、メンチさんの味の審査もハードル上がっちゃったし…。 そもそもカタチが分かっているのにも関わらず、最初から試食すらされずに駄目出しをされている私は、もはや打つ手無し。
私は静かに包丁をまな板の上に置いた。
「悪!お腹イッパイになっちった!」
第二次試験後半 合格者なし!!