09話 扉がいっぱい


「ふわ、ぁー」

よく寝た…と大きく背伸びをする。

「キルア!あれ見て!あれ!」
「あぁ?」

飛行船は既に、目的地と思われる三次試験の会場を目前としていた。

「高い塔みたいだけど、次の試験会場かな?」
「…そうだろうな」
「?」

キルアは、私が目覚めてから一度もまともに私と目を合わせてくれていない。 さっきから反応が悪いけど…私、なんかしたかな?!流石に寝てる時の事まで覚えていないし。
うーん…仕方ない。

「ねぇ、キルアー」
「なんだよ」
「私、なんかした?」
「いや、別に」
「じゃあ、何で私の顔見ないの?」
「…気のせいだろ」
「嘘嘘!絶対嘘ー!キルア分かりすいんだから」
「っ!嘘じゃねぇよ!」
「あ!やっとこっち見てくれた」

でも、キルアは私がそう言って笑うと直ぐに目を逸らした。

「くそっ…、はめやがったな」
「別に、はめたつもりはないけど…」
「あーもう!めんどくせぇ!ヤメだ。ヤメ」
「?なにが?」
「お前相手に後手に回るなんて御免だからな。遠慮すんのはヤメだ」
「…何言ってるか分かんない」
「いつか分かるって。それより三次試験、なんだろなー?」
「あ!話逸らした!」

キルアとそんな会話をしているうちに、私達は三次試験会場へと着いた。


「大きい塔…」

飛行船が降り立ってすぐにマーメンは私達に三次試験の内容を発表した。 それは、この馬鹿でかいトリックタワーを72時間以内に生きて下まで降りてくるというものなんだけど…。

「死んだら、合格もなにもあったもんじゃないっつーの」

しかし、どうしたものかと私は塔の周りを見渡した。

「あれ?」

人数が最初より減っている…。いつの間に…。

「可笑しいな」
「どうやら、すでに半数近くが頂上から脱出したらしい」
「クラピカ、レオリオ…」
「きっと隠し扉があるんだ」
「隠し扉?っていうことは、この床、とか?」

私達三人が顔を見合わせていると、ゴンが手を振りこちらへ向かってくるのが分かった。

ー!」
「あ、ゴン!」
「そこで隠し扉を見つけたよ」

…まじですか。

ゴンの言葉に導かれるように私達は扉があるという床の方へと向かう。

「ここに扉がいっぱいあったんだ」
「どれでもいいんじゃない?入ってみたら?」
「お前、軽すぎだろ」
「そう?」
「いくつかは罠だろう」
「でも、もしかして入ってみたら当りですぐに脱出できる扉もあるかもよ?」

ねぇ?私がそう言った途端、何故か皆が固まった。

「どうしたの?」

私、変なこと言ったかな?

「まぁ、運も実力のうちだからな!」
「そうだよ!罠にかかっても恨みっこなしだもんね!」
「(当りなんてあるかよ…)」
「(は、ゴンに続く恐ろしい程のポジティブさだな…)」
「じゃあ、ジャンケンで、入る扉決めよー」

当たるといいなぁという期待を込めて私達は各々の扉の前に立った。

「決まったな」
「一端、お別れだね」

「なに?」
「…気をつけろよ」
「うん!キルアもね」

「無茶しちゃ駄目だよ」というゴンの言葉にも「ありがとう」と御礼を返す。

「下で会おう!」
「では、行くぞ」

1、2の3…!という合図で、皆が勢いよく扉に入る。

ガコン!

「きゃっ!」

ちょっ、ちょっと待って…!!

「深い!深いんですけど?!」

こんなに落ちたら死ぬんじゃないの?!不思議の国のアリスに出てくる主人公も、こんな怖い思いしてたのかな?!

「ギャー!地面ー!!」

ドン!!

「あいたたた…」

私は、尻餅を付きつつもなんとか着地に成功した。

「なに?この紐」

私の目の前には、長くて嫌でも目につく赤い紐。
ためらいもなく私はクイッとその赤い紐を引いた。

「ん?」

私が上を見上げた瞬間…。

バサバサバサ!!

ドゴン!

「痛っ!」

私の頭上に紙吹雪と共に、何か筒のようなものが降ってきた。

「もーう!なによ!これ!」

少しキレつつも、私はその筒を開くと"あたり"の文字が書かれていた。

パンパカパーン!

「?!」

突然の効果音と共に男性の声が聞こえてきた。

「おめでとう、お嬢さん。私は、試験管のリッポーだ」
「何がおめでとうなの?」

まさか、本当に何もしないで合格とか?!

「今回、君はたった連続10勝するだけで脱出できる」
「…はい?」
「勿論、君が戦うのは最高の人材ばかりだ」
「い、いやいや!待って!それのどこが…」
「それでは、健闘を祈る」
「祈らないで!」

なにが、当たりよ!ある意味、ハズレじゃんか?!
連続10勝?女の子にこんな事やらさないでよね!
って言ってもやるしか道はない。

「私もゴン達とまだ、一緒に居たいから」

そのためにも、制覇しましょう!連続10勝!
その時に、ゴゴゴと前の扉が開いた。私の戦闘が始まりを迎える。


一方、ゴンたちは…。

、大丈夫かな?」
「さぁ、どうだろうな」
「大丈夫だろう。だって、ここまで残ってきたんだ」
「そうだよね!」

クラピカの言葉に安堵するようにいうゴンに対して、キルアは小さく呟く。

「……大丈夫じゃないと困るっつーの」
「キルア?」
「なんでもねぇよ。それより早く先行こうぜ」
「それにしても、ウゼーよなぁ」

レオリオを含め、トンパを含んだ多数決の道で苦戦中だった。