13話 怖くなんてないさ
暇だなぁ。まさか、こんな数日で見つかるなんて思わなかった…それに陽が落ちてだんだん暗くなってきたし。
「…くら、く?」
私は、暗いところ好きじゃない。だけど今まではターゲットを探すという目的があったから、気にしなかった。
でも、今までもこうして一人で乗り越えてきたんだ。だから今回もこれくらい平気…平気…。
「わーん!暇になったら、なんだか急に寂しくなってきたー!誰でもいいから来て欲しいー!」
だけど皆隠れてるだろうし、そう簡単に見つかるはずもない…。
「…どうしよう…これくらいわけないはずなのに」
周りなんて気にしてる余裕なんてなくて走り続ける。どこに向かうわけでもなく、無心でただ走り続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ドン!
「きゃ!」
だから誰かに、ぶつかるなんて思いもしなかった。
「なにやってんだよ」
「ゴメンな…って、キルア!」
「らしくねぇな。こんな目立つように走り回るなんて狙ってくれって言ってるようなもんだぜ」
「きるぁああ~」
「はぁ?!」
安心感が溢れでて来て、涙がボロボロ流れてきた。
「ごめん、きるあ…」
「ったく、吃驚させんなよ」
しゃがみ込んでいる私に視線を合わせて、「泣きやんだか?」とキルアに宥められながらも、私はゆっくりと顔を上げる。
「なにがあったんだよ」
「特に何かあったわけじゃないの…。ただ、寂しくなっただけ」
「なんだそりゃ」
私は立ち上がろうとするキルアの服の裾をガシッと掴むと、キルアはピタリと動きを止めて私を見る。
「……」
キルアは大きな目をパチクリとさせながらも、息を吐くとその場に座り込む。
「まぁ、いいけど。別にやることねぇし」
「え?」
「…行くなってんだろ。一緒に居てやるから手離せよ」
「ほ、本当?!」
「だからもう泣くな」
「うん!あ、ありがとう!キルアー!」
私は思わずキルアに抱きついた。キルアの優しさが本当に嬉しかったから。
「お前、まじで急に人に抱きつく癖やめろ!」
「なんでよ!いいでしょ!別に!」
「ったく…それで?」
「それでって?」
「試験はどうなんだよ。あれ、使ったのか?」
キルアの言葉で、なんのことかピンときた私は素直に答える。
「使ったけど脅しに使っただけ。でもおかげで、もうプレート集めたよ」
正確には、追われるのを回避するのに使っただけで、プレート自体は拾ったのと交換したんだけどね…。
「なんだよ。相変わらず、甘いことしてんなぁ」
「もう。吃驚したよ。こんな高性能な小型爆弾、どこで手に入れたの?」
「俺の兄貴がさ、こういうの作るの得意で貰ったんだよ」
「へぇ」
「あ。つか、よくわかったな。プレート持ってる相手誰か分かんねぇとか言ってなかったか?」
「え、あー…それは、まぁ、たまたま?」
自力で見つけては居ません。
「たまたまって、なんだよ。それ」
「いいじゃん!それよりキルアは?」
「バーカ。誰に向かってもの言ってんだよ」
「…そうでした」
そう返すにキルアは心の中で思う。
「(そもそもそうじゃなきゃ、お前の様子見に来たりしてねぇっつの…。ま、来てよかったけど)」
「ゴンは大丈夫かなぁ」
しかし、そんなことなど思いもしていないであろうにキルアは息をついた。
「ねぇ、キルア」
「なんだよ」
「ひま」
「…っても、やることねぇしな」
「そうなんだよね」
この際、ゴンたちでも探しに…いや駄目だ。もしかしたら、狩りの真っ最中かもしれない。 邪魔はしたくない。
「やることないよー!」
「あーもう!うっせーな!」
「あ!そういえばキルアは試験が終わったらどうするの?」
「どうするって…。そういうはどうなんだよ」
「私か。私はねー…」
おじいちゃんの家に帰るのかな?やっぱり…そしてまたあの孤独な修行が始まるのかな…
「帰りたくないなぁ」
「なんで?」
「だって折角キルア達に出会えたんだよ?もっと一緒に居たいもん!」
もっとドキドキしていたい。 一人じゃ見えなかった世界が広がってる事に、気づいてしまったから…。
「友達になれたのに、このままお別れなんて嫌だよ」
「友達?」
「え。もしかして私だけそう思ってた?!そうだったらゴメン!じゃあ、改めてお友達になろう!」
そう言って私がキルアの手を握ると、キルアが驚いた様な表情をする。
「…本当時々すっげぇ強引だな」
「そうかな?」
「人からそんな直球に言われたことねぇけど、相手がだから素直に喜べねぇな」
「なにそれ。私じゃ不服ってこと?」
「そうじゃなくてさ…」
「なくて?」
「……やっぱいいや」
「えー!なにそれ!急に話やめないでよー!」
ごろんと寝転がって反対方向を向くキルアに対して、 が「ねぇねぇ!」とキルアの体を揺する。
「(想像以上にヤバい…つか、これって…)」
正直、ここまでキルアの中でと言う存在が大きくなっているなんて思いもしなかった。
今も隣にいるだけでも心臓の鼓動が治まらない。嘘をつくのは慣れてる。自分の感情に蓋をするのも慣れてる。
だけどこんなのは初めての経験だった。
「もうー!キルアの馬鹿!」
「(支配欲、じゃねぇよな…)」
だからこそ、自分の思考が怖くなった。これは、恋だと思っていたが違うのかも知れない。 初めて自分に心を開いてくれた彼女を、ただ自分の物にして支配してしまいたいだけなのではないかと自分の心を疑ってしまった。 キルアの体を揺さぶるの右手首をキルアが掴む。
「わっ」
「……」
「?キルア?」
の手首を掴みながら、 キルアが上半身を起き上がらせるとの方を黙って見つめる。
「どうかした?」
「んー。やっぱよくわかんねぇな」
「え?」
「思えば、俺、殺し以外でどうにかしたい相手なんていなかったからな」
「もう。キルアったらまたそんなこと言うんだから」
「事実なんだよ。今まで一緒に居て欲しいとか、誰かとどうしたいとか考える余地なんてなかったからな」
「じゃあ、今は誰かと一緒に居たいって思ってるってこと?」
「なんでそう思うんだよ」
「あれ?違うの?過去には無かったけど、今は違うっていうような言い方だったから、そうなのかなって」
「へぇ…じゃあ、お前は俺が誰と居たいって考えたと思う?」
「そりゃあ、ゴンでしょ」
自信満々と言いたげなの表情に、キルアは呆れたような表情を見せる。
「お前は鈍いのか鋭いのか分かんねぇな」
「え?違った?」
「半分正解で半分ハズレ」
「半分?」
「ああ。半分」
どこが間違ってたんだろ?と言いたげに首を傾げるが 可笑しくてキルアは吹き出しそうになる。
「(読みは間違ってないけど、俺の問いにはハズレだから半分なんだよなぁ)」
もう深く考えるのはやめだ。恋かどうかなんてどうでもいい。望みを持ってしまったのは事実だ。
「は今やりたいことあるのかよ」
「私?私は今、キルアともっとお喋りしたいよ」
「…お前、本当、時々そういうこと言うのやめろよな。つか俺以外に言うなよ。勘違いされるぞ」
「勘違いもなにもないよ。実際に私はそう思ったんだもの」
「ああ。そうかよ」
これは何を言っても自分の言いたいことはには通じなさそうだと判断したキルアは、息を吐く。
「ねぇ、キルア」
「んー?」
「ありがとう」
「はぁ?なんだよ。急に」
「今私と一緒に居てくれて、ありがとう。ちょっとだけね、一人で居るのが急に寂しくなっちゃったんだ」
思いもしなかったの言葉にキルアは目を大きく見開く。
「私ね、今までおじいちゃんが私に出したテストって私自身がしっかりしなくちゃ生きていけないものばかりだったから、今回も一人で乗り切らなきゃいけないんだって思ってたの。でも違った」
キルアの方を見てにっこり微笑んで自分の方を真っ直ぐに見るに思わず、キルアの心臓の鼓動が高鳴った。
「実際、歳の近い人達に助けられるのってすごく新鮮だった。それに、こんなにドキドキしたのも初めて!」
「…」
「ゴンとキルアとクラピカとレオリオに会えて、本当に楽しかった!」
感謝しても、しきれないくらい色々な感情をくれた。とは改めて思う。
「だから、ありがとうね」
「…そういうのは試験が終わってから言えよ」
「あ。それもそうか」
「そうだよ」
自分も同じだとキルアは心の中で思う。だけど自分は、初めてづくしの感情に、どうしていいか分からない。
やっぱり、自分は欲しいものを望んではいけないのかもしれないとも思うけど、 もう少しだけ、と一緒に居たいという欲を抱いてしまったんだ。