15話 最終試験


「最終試験は、1対1のトーナメント形式で行う」

最終試験のクリア条件は、たった一勝すれば良いというものだった。 これは誰にでも二回以上の勝つチャンスが与えられている組み合わせで、 その組み合わせは、成績の良い者に多くのチャンスが与えられているという。

その中での一勝。つまり、不合格者はたったの一人ということだ。

「私の初戦の相手は…」

…え?

「そして、この組み合わせは諸君らの生の声とを吟味した結果こうなった」

いや、だから…

「じゃあ、何で私だけ吟味されてないのー!」
「ん?なにか不満か?」
「不満大有りよ!私、ヒソカと戦いなくないって言ったよ!」
「…はて?そんなこと言っとったかのー?」
「この…!くそじじぃ!!」

いつか痛い目みせてやる…!

「なんか言ったかの?」
「いえ!なんでもないです!精一杯頑張ります!」
「うむ。それでいい」

こんにゃろ…でも、困ったなぁ。ヒソカに勝たないと、次の相手はクラピカだ。 そんなのは絶対いや!こうして、それぞれが思いをこめた最終試験が始まろうとしていたのだった。

「第1試合!ハンゾー対ゴン!」
「ゴン、がんばれー!」
「うん!」

だけどその笑顔が消えたのは、始まってすぐのことだった…。

「ゴン…」

ドゴッ!グッ!

嫌な音が部屋中に鳴り響いていた。

「さっさと言っちまいな」
「誰が言うもんか!」

誰もが見ていられなかった。ゴンとハンゾーの圧倒的な実力の差、そして経験を見せつけられていた。
全てにおいて、実力ではゴンよりハンゾーが勝っていたのだ。

「ちょっとあんた!私のゴンに酷いことしないでよね!」
「これは試験だぞ!そんなの知った事じゃねぇんだよ!」

ハンゾーが私に向かって怒鳴る。

「あのハゲ頭ムカつく!」
「落ち着け、
「でも、クラピカ!」

こんな一方的な試合…見てらんないよ!

「ゴン!無理はよせ!!次があるんだぞ!ここは…」
「ゴンは引けないよ」
「でもな!!」
「レオリオ。お前がゴンの立場なら、まいったと言えるか?」
「死んでも言うかよ!えらそーにしやがって!でも言うしかねぇだろ?!」
「そうなんだよねー」
「矛盾だらけだが、気持ちはよく分かる」

その後もハンゾーの一方的な攻撃は、三時間も続いた。

「ゴン…」

そう。こんな状況でまいったなんて言えるわけがない。負けず嫌いなら、尚更だ。 でも、この圧倒的な差はどうなっても埋まらない。勝負に勝ち目はないと見えている。
だけど、ゴンはそれでも、ただ真っ直ぐな瞳をしていた。

「まだ…やれる」

ゴンはフラリと立ち上がった。つらいであろう体を無理して…。 だけど、そんなゴンをハンゾーは、容赦なくドン!と床に押し倒して告げた。

「腕を折る」
「……」

周りにも、緊張が走った。

「本気だ、言っちまえ!」
「い!いやだ!!」

ボキッ!!

「ゴンー!!」

私の声と共に鈍った音が鳴り響いた。許せない。だけどその気持ちは、皆一緒。

「クラピカ、…止めるなよ」
「……」
「あの野郎がこれ以上なんかしやがったら、ゴンには悪いが…抑え切れねぇ」
「大丈夫だ。おそらくそれはない」
「じゃあ、私が二人を止める。だけど…」
…」

でも私も、結構頭にきてる。

「いつ私が飛び出して、あのハゲが内臓バラバラになるか分かんないから、その時は止めてね」
…時々俺はお前がおっかなくなるぜ」
「二人に手は出させないよ。あれは私がヤるの」

私は、ニッコリと二人に笑いかけた。

「「(冗談に聞こえないな…)」」

二人は、を見てそう思った。 「最後の頼みだ。まいったと言ってくれ」

シンとした空気がヒシヒシと体に流れ込んでくる。 ハンゾーは、本気だ。本気で、ゴンの体を切り刻むつもりでいる。

「…困る。脚を切られちゃうのはいやだ!でも、降参するのも嫌だ!だから別のやり方で戦おうよ!」
「てめぇ!自分の立場分かってんのかー!」

ゴン…我がまますぎ!!

だけどさっきまでのヒシヒシとした空気は、やわらかいものに変わった。

「もう大丈夫だ」
「うん、完全にゴンモード入ってるよ!」
「われわれも、巻き込まれてしまったな」
「それができるのが、ゴンだよね」

ゴンは、凄い。一点の迷いもないだから。
冗談のようにも聞こえるが、ゴン自身本気でそう思っているのだから…。
しかしハンゾーは、そんなゴンに刃物を突きつけた。 そう、いくら会話がゴンのペースだとしても、絶対的にハンゾーの有利には違いない。 殺したら反則。だけど、来年受ければ済む話だとハンゾーは告げる。

「ゴン…」

あなたは、どうするの?

「命よりも意地が大切か?!そんな事でくたばって満足か!?」
「親父に、会いに行くんだ。ここで諦めたら、一生会えない気がする。だから退かない」

その言葉とゴンの瞳には、一点の曇りも見つからなかった。

「ゴンの勝ちだ」

ぼそりと呟く私に頷くクラピカ。それに対して、レオリオが「なに?!」と驚いた声を上げる。

「…まいった。俺の負けだ」

もうハンゾーさんにはゴンを殺すだけでなく、傷つけることすら出来ないだろう。 ゴンのあの真っ直ぐな目に、勝てる人はいない。

「俺は負け上がりで次にかける」
「そんなのずるいよ!」

いや、凄くゴンらしいんだけど…相変わらず無茶すぎる!

「一緒にどーするか考えようよ!」
「アホかー!!」

ゴンは、思いっきりハンゾーさんに思いっきり殴られ気絶したが、何はともあれ…合格者第一号だ!

「全く…ゴンの奴、ヒヤヒヤさせやがって」
「だけど合格者第一号だよ」
「まぁ、ハンゾーが言うように目が覚めたときゴンは納得しないだろうがな」
「それでも合格は変わらないっておじいちゃん…ネテロ会長も言ってたよ」
「そうだな。じゃあ、お次は…」
「はーい!」

次は…私の番だよ。

VSヒソカ!」

審判の声と共に私は前に出ると背後から皆に声を掛けられる。

「おい!!気をつけろよ!」
「うん!ありがとう!レオリオ!」
「決して無茶はするな」
「分かってるよ」
「…頑張れよ」
「任せなさい」

私は、皆の応援に反応しながらも中央へと向かった。

「…負けてくれませんか?」
「うーん、そう簡単にはいかないよ」
「でしょうね」
「始め!」

ダッ!と私は、審判の声と同時に間合いをとった。

、最初に言っておくよ」
「…なに?」
「ああは言ったけど、正直、僕はまだ君とやるつもりはない」
「負けてくれるの?!」
「条件次第」
「じょーけん?」
「僕にキスしてくれる?」

ピシッと部屋中の空気が固まるのが分かった。
…はぁ?

「誰が?」
が」
「誰に?」
「僕に」
「……い」
「「い?」」

周りは、の言動に耳を貸す。

「い、いやぁ!ぜったいにいやぁああ!」
「そんなに嫌がるなよ」
「普通に嫌がるだろ。気持ち悪い」

冷静なレオリオのツッコミに感謝したいところだが、私はそれじゃなかった。

「その首ハネてやる!反則負けでも構わない!私がお前を殺す!」
「残念だよ」
「あたりまえだ!馬鹿!」

なんだろう…心理戦ですでに負けている気がする。

「じゃあ、ちょっとだけ」

ビュ

「!!」

ヒソカは、すごい速さで私の目の前に現れた。
パシっ!と手首を掴まれた直後、ヒソカの強い力で私の構えていたピコピコハンマーが地面に落とされる。

「痛っ!」
!」

キルアの声が響く中、私から手を離したヒソカによって、トランプで頬を切られた。

「…ナイフじゃないよ。変態ピエロさん」
「うーん、言うねぇ」

ビュっ!カンカン!!

ヒソカのトランプの攻撃を交しながら私は、床に落ちたピコピコハンマーを拾い上げる。
休むこと無く襲ってくるヒソカからのトランプの攻撃を手持ちのハンマーを盾にはじく。

「動きは合格だけど、力は無いね。君」
「へぇ。じゃあ、こういうのはどう?」

ドゴン!!

私はハンマーを思いっきり振り上げ、床にたたき付ける。
ハンマーの衝撃で床の一部は粉々に割れ、破片がヒソカに飛び散り、頬をかすめる。

「いいね…けど後ろががら空きだよ」
「それを待ってたって、言ったら?」
「!」

ぐるんと勢いのまま体を回転させて、狙い通りに私の背後に回ってきたヒソカの腹部めがけて、思い切りハンマーをぶち込んだ。

「っぐ…!いいよ……それにやる気に満ちたその目、好きだよ」
「!!」

うまく腹部を直撃させたはずなのに、ぞくりと感じる嫌な予感。

ガッ!

休む間もなく、私が頭上に振り下ろしたハンマーをヒソカは左手で自身の腹部を押さえながらも軽々と右手で受け止めた。

「なっ!」
「うん、前からちゃんと見てみたかったんだけど、面白い武器だね。これ」
「っ!余裕で受け止めてよく言うわよ…」

ヒソカに受け止められ、ミシミシという音がしながらも、私もピコピコハンマーに力を込めて押し切ろうとする。

「そんなことないよ。なかなかの攻撃だった。本当はもっと楽しみたいところだけど、僕の負け」
「…え?」
「君の方からこんなに近くに来てくれる機会はもう無さそうだしね」

そう言って私の頬に顔を近づけると、チュッというリップ音が鳴った。

「ひっ!!」
「契約成立。あ、僕の負け上がりね」
「あ。はい」

審判にそう言うと、スタスタとヒソカはその場を去っていった。
なに…今、頬に…私は、ヒソカのトランプで傷付けられた頬をキスされた…?
ぺたんとその場に座り込み、私は頭を抱え込む。
フルフルと震える私の体を見て、レオリオ達が慌てて私の近くに駆け寄ってくる。

「おい!大丈夫か?!」
「い…いや…」
「落ち着け!!」
「なんで?なんで…」

なんで合格と引き換えにこんな目に遭わなきゃいけないの…?
なにかが、キレた感覚だった。

「…クソピエロ」

ぼそりと呟き、ふらりと立ち上がってハンマーを構える私に周りの皆が目を見開く。

?」
「面白い話をありがとう…でも…笑えないっつーの。これだからピエロは嫌いなのよ」

「待て!」と止める周りの声や手を振りほどき、くるくるとピコピコハンマーを回して周りの人間を遠ざける。

「っ!!」
「…殺す」
「「…え」」
「今すぐ殺して息の根を止めてやる!この、変態道化師ー!!」

私は、再びヒソカに向かってハンマーを振り上げた。
周りの皆が驚く中、一人だけが、私の前に立ち塞がったのだ。

「落ち着かんか、馬鹿もんが」
「!止めないでよ!これは私とあのピエロの問題よ!」
「相変わらずじゃて…。一度キレると見境の無い性格は」
「おじいちゃん!邪魔しないで!」
「やれやれ。この場では、会長と呼ばんかと言っておるじゃろ。お主は言い出したら聞かんし、一度頭にくるとなかなか収まらんから面倒なんでのう」

トン

首の後ろに軽い衝撃を感じると、ガクンと意識が遠のいてく。

「え…」
「少し寝て居れ」

ドサッ…

私は、そこで意識を手放し、目が覚めたら…。


「ここ、どこ?」
「気がついたのね」
「メンチ、さん」

べッドの上でした。