16話 試験終了!待っててキルア!


「メンチさん…あの…試験は?」
「終わったわ」
「え」
「あなたが寝ている間にね」
「あの…だれ、が?」
「ぁあ。試験のこと?」
「はい」

一体どうなったんだろう?ヒソカと戦った途中あたりから記憶がない。

「…よく聞いてね」

私は、メンチさんの話をすぐに信じることが出来なかった。

「うそ…」

嘘だよね?キルアが不合格なんて…。

ダダダッ!

私は廊下を走りながら先ほどのメンチさんの話を思い出す。

「全く、キモいピエロよねー。なに考えてんだか」
「はぁ…(正直、途中からあんまり記憶無いんだけどなぁ…)」
「第2試合は、確かあなたの友達じゃなかったかしら?」
「あ、そうだクラピカ!」
「そうそう!あなたの時と一緒よ。だけど違ったのは暫く戦った後で周りの私達には聞こえなかったけど耳元であいつが何か言った後で、直ぐに自分から負けを宣言したことね」
「ヒソカが?」
「そう。凄い余裕よね」
「……」

確かに、ヒソカの実力は認めざるを得ないくらいに秀でている。 それくらいの余裕があって当然って言えば当然なのかもしれない。

「そして第3試合。ポックルって子とあのハゲの対戦だったんだけど」
「(メンチさん…私以上に口が悪いかもなぁ…)」
「最初に戦ったあの子と同じ体勢になって、直ぐに負けを宣言したわ。まぁ当然ね」

ってことは、ハンゾーさんが勝ったのか…。

「そして第4試合。これは圧倒的だったわ」
「えっと、ヒソカと…」
「ボドロっていうおっさんよ」
「ぁあ!」

なんか、古い時代の感じがするあの人か…。

「圧倒的なのに、なかなか負けを認めなかったけどね」
「そう、なんだ」
「そして…問題は、ここからよ」

先ほどまで軽く話していたメンチさんは、何故か少し眉をしかめた。

「第5試合。あの生意気な子もあなたの友達でしょ?」
「生意気…キルアの事ですか?」

ゴンは合格したし、クラピカもそんな感じじゃないもんね。レオリオはおっさんだし…。

「そうよ。戦う前にポックルっていう子とは戦う気がしないとかなんとか言って、戦線離脱よ」
「キルアらしいけど…」
「まぁ、それが誤算だった訳だけど」
「え?」
「さっきの試合でかなり負傷していたボドロの変わりに、別の試合が行われることになったのよ」
「…それって、キルアと」
「自分では、ギタラクルって名乗ってたわ」

針いっぱい顔をつけた訳の分かんない男だとは思ってたけどね。とメンチさんが続けて言った。

「久しぶりだね。キル」
「!?」

ズズっと針を着々にぬいていくと…そこには…。

「兄、貴…」



「え!お、お兄さん?!」
「そうよ。あの顔の針は、自分の弟にばれないために顔を変えてた。ってところかしら?」
「そ、それで?!」
「どうやらあの子、自分から家を飛び出して来たみたいね」
「(そういえば、家出してきたって言ってたっけ…キルア…)」


「母さんにやっぱり心配だから、それとなく様子を見て来るように頼まれてたんだけど」

会場中に、じりっとした緊張の空気が流れてた。

「奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんて。俺も次の仕事の関係上、資格をとりたくてさ」
「別になりたかったわけじゃないよ。ただなんとなく受けただけさ」
「そう、じゃあ心おきなく忠告できる。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は…殺し屋なんだから」



「なにそれ…」
「ひっどい兄貴よねー。まぁ、まだ酷いことは、続くんだけどさ」
「え…」

メンチさんは続けて話をしてくれた。

「お前は熱を持たない闇人形だ」

自身は何も欲しがらず。何も望まない。唯一歓びを抱くのは…

「人の死に触れたとき。お前は、俺と親父にそう育てられた」

そんなお前が…

「何を求めてハンターになると?」
「確かに…ハンターになりたいって思ってるわけじゃない。だけど…俺にだって欲しいものがある」
「ないね」
「ある!今、望んでいる事だってある!」
「ふーん、じゃあ言ってごらん。何が望みだ?」
「……」

周りは、シンと静まり返っていた。

「どうした?本当は、望みなんてないんだろ」
「違う!」

その後、キルアは絞るような声で言った。

「ゴンと…友達になりたい…」

もう、殺しなんてうんざりだ。

「普通に…普通にゴンと友達になって普通に遊びたい」

それに裏切りたくない奴がいる。思い浮かんだ馬鹿みたいな笑顔に自然と少しだけ、力が抜けるのが分かった。

「無理だね、お前に友達なんて出来っこない。今のお前にはゴンがまぶしすぎて計り切れないだけだ」
「違う…」
「お前はいつか彼を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか試したくなるさ…なぜならお前は、根っからの人殺しだから」

その時、少し前にレオリオが出てキルアに叫ぶ。

「キルア!聞く耳持つな!ゴンと友達になりたいだと?寝ぼけんな!とっくにお前ら友達同士だろーが!!」
「!」
「少なくともゴンはそう思ってるはずだ!」
「え?そうなの?」
「ったりめーだろうが!」
「そうか、まいったな…よし、ゴンを殺そう」

ギタラクルの言葉で、キルアだけでなく、周りにいた全員に一気に緊張が走った。

「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだ」
「……」
「それにお前が、敢えて名前を口にしていない子…さっきから気になってたんだ」

ギタラクルは、一度ネテロの方を見た後ですぐにドアの方に目をやって言う。

「…。だっけ?」
「!」
「面白い子だよね。ちょっと変だけど」
「あ、あいつは…」
「この試験中、お前と随分よく一緒にいた女の子だろ?」
「…たまたまだよ。なにも関係ない」
「そうかな?知ってるよ?お前が、あの子のこと…」
「違う!」

キルアはギタラクルの言葉を遮った。

「…まぁいいだろう。どうする?俺と戦わないと大事なゴンが死ぬ事になるよ?」
「そいつは何があっても俺達が止める!お前のやりたいようにしろ!」
「っ!」
「ああ。そういえばゴンだけじゃなくて、彼女も医務室にいるんだけっけ?ついでだ。一緒に殺しておこうか」

レオリオの声だけが響いていたが、この言葉が決め手になったかのように、キルアは握る拳を揺るめた。

「…まいった。オレの…負けだよ…」

キルアの言葉が響くと、ギタラクルはパンと手を叩く。

「あー、よかった。これで戦闘解除だね。嘘だよ、殺すなんて。お前を試してみただけだよ」
「……」
「お前に友達をつくる資格はない。必要もない」

そう言いながらギタラクルは、そっとキルアの頭の上に手を置いた。



「その後よ。新たな試合が始まったと同時に、あの子が…ボドロを刺したの」
「うそ…」
「残念だけど、本当の事よ。委員会はあの子を不合格とみなしたわ」

うそ…うそ、うそ、うそ…。

信じない。キルアがまた誰かを殺すなんて、そんなの…絶対に何かが可笑しい…。

「キルア!!」

医務室を出て、廊下を走り抜けた私は、今、皆が講義を受けているという部屋の扉を勢いよく開けた。

…」

その時に私が目にしたのは、そこにはやっぱりキルアの姿は居なくて…。
尚且つ、キルアの兄貴であろう見知らぬ黒い長髪の若い男の人の腕をグッと握り締めているゴンの姿だった。
左腕には包帯を巻いているゴンだったが、眉間に皺を寄せて、強く握る姿から相当怒っているのが目に見えて分かった。

「友達になるのだって資格はいらない!」

ゴンの声が大きく響き渡った。

「キルアのところに行く。もう謝らなくていい。案内してくれるだけで」
「…そして、どうする?」
「キルアを連れ戻す」
「ゴン…」
「お前達に操られてたんだから、誘拐されたも同然だ」

ゴンの言葉に、私も足を一歩づつゴン達の方へと進めた。