18話 試しの門で腕試し


「わー!大きな山だー!」
「暗殺一家のアジトか…見てみると、嫌な感じだな」
「そうかな?大丈夫だと思うけど…」

イルミさんが言っていたことは、少し気になるけどね…。

「そうだよ!友達に会いに来ただけだもん!あ、ほら見てー!」
「わー!可愛いー!」
「お前らなー!」
「ゴンとらしいな」

ゴンが先頭を走りながらもこうして私達は、近くの市場に到着した。

「ククルーマウンテン?ゾルディック家の観光かい?定期バスが日に一本ガイド付きで出てるよ」

とにかくバスに乗ってな。と言う優しそうなおばさんの言葉を素直に聞き、私達はバスへと乗り込んだ。

--「家の場所も別に隠してないよ。行けば、近くに住む奴らは誰でも知ってる」

って確かイルミさんが言ってたけど…そういうことか!!

「皆様、左手をご覧ください。標高3722mの死火山で…」

家を観光されるのって、一体…どんな気分なんだろう…?

「5人の兄弟がいて皆、殺し屋でーす」
「ぉおー」

ガイドさんの案内に観光客全員が耳を貸す。だけど一部は、ただの観光客じゃない人がいるようだ…。

「到着でーす」

バスが着くと、大きな石の門が目に入った。
バスガイドさん曰く、ここが正門で、別名が黄泉への道と呼ばれているらしい。 それに加え、山まで敷地ときている…キルアって…

「凄いよね!」
「そ、そうだな…」
「でもさー…」
「どうした?ゴン」
「中に入るには、どうしたらいいのかな?」
「そういえば、そうだね…」

ゴンの疑問ももっともだ。実際ここが正門だというのだからキルアは勿論、家族だって行き来してるんだろうけど…。

「あんな大きい門から入るのかな?」
「ガイドさんに聞いてみようよ!」
「そうだね」

私とゴンがガイドさんに近づき聞いてみると…バスガイドさんの動きが固まった。

「坊やにお嬢ちゃん…二人とも私の説明、聞いてまして?」
「だって…」
「うん。でも…」
「中に入れば二度と生きて出られません!殺し屋の隠れ家なのよ!」
「あ、あはは…」

私とゴンは、ガイドさんにものすごい笑顔で怒られました。 すると先ほど私達と同じバス後方に乗っていた殺しの懸賞金目的であろう男達二人が突然出てきたと思ったら、 守衛さんから勝手に鍵を奪って、小さな門に入って行ってしまった。

「「!?」」
「…骨?」

しかしすぐに二人は肉が剥ぎ取られ、骨だけになって帰ってきた。 扉の中からなにか、動物のような手が見えたけど…

「猫ちゃんかな?」
「いや、そんな可愛いもんじゃねぇだろ」
「だって…」

さっき守衛さんがミケって呼んでたし…

「ミケってやっぱり猫だよね?」

のん気な会話をしている私達とは裏腹に、乗客はこの光景を見て、騒ぎだし、「早くバスを出せ!」とバスガイドさんに迫っていた。

「あんたたちも早く!」
「あ、俺達ここに残ります」
「先に行っててください」

私達がそういうとピタリと空気が固まるのが分かった。


「なるほどねー。キルア坊ちゃんの友達ですかい」

守衛のおじさん曰く、20年勤めて私達が初めて友人として訪れたらしい。

「…そんな」
「あんな連中は、ひっきりなしに来るんだけどね」

あんな連中とは、恐らくさっきの盗賊みたいな人たちの事だと思う。 いくらキルアの家が稀代の殺し屋だからって言われても…容易にその風景が想像できて、なんか悲しい。

「本当に嬉しいよ。ありがとう!」
「そんな…」

お礼言われるほどのことなんかじゃ、ないのに…。

「でもね、君らを庭内に入れるわけにはいかんです」

おじさんは、番犬ミケの存在についてわたし達に教えてくれた。

「猫じゃなくて、犬だったんだね」
「10年前から主から出された命令を忠実に守ってるんだよ」
「それって…」
「"侵入者は、全員かみ殺せ"…あ、忠実じゃないわな。喰い殺してるから」

家族以外の命令は絶対にきかない。なつかない番犬ミケ…。

「なんかやっぱり、悲しい…」
「…
「まぁ、なんにせよミケがいるから、あんた達を中には入れられないね」
「そんな…」

折角ここまで来たのに…と私が下を向いたら、クラピカがポンと軽く私の頭に手を置いた。

「?」
「守衛さん、貴方はなぜ無事なんですか?」
「…クラピカ」
「貴方は中に入るのでしょう?中に入る必要がないなら、鍵を持つ必要もないですから」
「いいところつくね」
「守衛、さん?」
「しかし、半分当たりで半分ハズレです。中には入るが鍵は使いません」
「え?」
「どういうこと?」
「これは、侵入者用の鍵なんです」

大抵、ああいう連中は不思議なことに正面からやってきて、扉が開けられないと門を壊して入りたがるらしい。

「全く迷惑な話でしょ?そこで、わざわざ脇の方に鍵付きの扉を設けたんですよ。侵入者は、無抵抗のあたしから鍵を奪いミケに喰い殺されるって寸法なんです」
「…あなたは」

クラピカの言葉に、守衛さんはニヤリとした笑みを浮かべた。

「御察しの通り、あたしは守衛じゃない。ミケの後片付けをする、掃除夫ですよ」
「そして本当の門にはカギがかかっていない!」
「その通り」
「なに!?」

レオリオが、過敏にその言葉に反応し、門の前へと急いだ。

「むん!」

クラピカに聞いたレオリオは、すぐに守衛室から出てグッと正門に力を入れて押す。

「んぎ…んぎぎぎぎ!」
「レオリオ?」
「ハッ!押しても引いても左右にも開かねーじゃねーかよ!上にあげるのか?!」
「いや、違うでしょ」
「そうです。単純に力が足りないんですよ」
「アホか!全力でやってるんだよ!」
「まぁ、ごらんなさい」

この門の正式名称は"試しの門"。この門さえ開けられないなら…

「ゾルディック家に入る資格なしってことです」
「!!」

おじさんがそう言った後、ドアに力をグッとこめると、ゴゴォオ!という音をたてて1の扉が開く。 しかし手を放すと、ゴォン!と直ぐに扉が閉まってしまった。

「ご覧の通り、扉は自動に閉まるから開いたら直ぐに入ることだね」
「おじさん!凄い筋肉!」
「ハハハっ!年々これがしんどくなってきてねぇ。でも、開けられなきゃクビですから」

考えてみたら、大変なお仕事だよね…殺し屋の守衛なんて…。

「ミケは"試しの門を開けて入ってきた者は攻撃するな"そう命令されてるんですよ」
「そっかー!それでおじさんは攻撃されないんだね!」
「その通りです。ちなみに1の扉は、片方2トンあります」

…片方2トンか

「はぁ?!そんなもん普通…ん?ちょっと待て。"1の扉は"、だと?」
「ごらんなさい。7まで扉があるでしょ?」
「ああ」
「1つ数が増えるごとに、重さが倍になってるんですよ」
「倍!?」

力を入れれば、その力に応じて大きい扉が開く仕組みらしい。

「キルア坊ちゃんが帰ってきたときは、3の扉まで開きましたよ」
「っていうことは…」
「12トン!」
「…16トンだよ、ゴン」

クラピカの冷静な突っ込みにゴンは、少し考えるように頭を掻く。

「住む世界が全く違うんですよ」
「…気に入らない」
「ゴン?」
「おじさん、カギ貸して」
「え?」
「友達に会いに来ただけなのに試されるなんてまっぴらだよ。俺は侵入者でいい」
「ゴン…」

ゴンの決意は固かった。

「無茶言うなよ、ゴン!」
「そうだよ!」
「友達を試すなんて変だよ。絶対そんな門からは入らない!」
「でもね、ゴン…!」
「確かに、君の言う通りだとは思いますけど…」

絶対に強行突破などとすれば、あの番犬ミケに食べられるのは目に見えてる。

「時間はある。1の門から入る事にしよう」
「ゴン」
「……」

ゴンは無言で手を出し、守衛さんにカギを要求した。

「ダメだ。こりゃ」

ゴンは一度こうなったらなかなか意思を曲げない。皆よく分かってる。

「残念ですが、カギは渡せません。…でも、ちょっと待ってください」

そういうと、守衛さんは室内の電話を掛け始めた。

「?」
「今ここに……はい!すいません!はい!」

守衛さんは、困ったような表情で受話器を置いた。

「やっぱり、しかられちゃったか」
「屋敷に電話してくれたの?」
「いや、ゾルディック家の執事ですがね」

屋敷の連絡は全て執事さんを通していて、家族までは滅多に繋がらないと言う。

「ほぇ~…」
「もう一度掛けてくれる?今度は俺がでる」
「いいですけど、嫌な思いさせちゃいますよ」

プルルルル…と再び電話を繋ぐ音がした。

「僕、キルア君の友達のゴンと言います。キルア君いますか?」

プッ…

「?」
「……」

ピッピッ…

「??」

電話が切れた音が鳴ると、ゴンは再び電話を掛け始めた。

「なんでお前にそんな事が分かるんだ!キルアを出せ!!」
「!!」

会話は分からないが、どうやら、相当酷いことを言われているらしい。 電話がガチャリと切れた後のゴンは、無言で外に出て、門へと向かっていった。

「ゴンの奴、キレてるな」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!ゴン!」

ビュッビュ!という音を立てて釣竿を振り始めた。本当に強行突破するつもりだ…!

「落ち着け!ゴン!」
「止めろ!ゴン!」
「そうだよ!流石に無茶だよ!」
「いいよ!三人は待ってて!俺は一人で行くから」
「だからー!」
「そんなわけにいかねぇだろうが!」
「そうだ!まずは冷静になれ!」
「うーーん…しかたないねぇ」

私達のやりとりを見ていた守衛さんは、息を吐く。

「ゴン君、カギを渡しましょう」
「待ってくれよ!オレらが説得するから…!」
「その代わり、私も侵入者の門から入ります」
「え」
「ミケが私のことを覚えていて攻撃しないかもしれません。ま、100%全員殺されるでしょうが」
「ダメだよ!そこまで迷惑かけられない」
「キルア坊ちゃんの友達を見殺しにしたら、もう会わせる顔がありません。あなた達が死ねば私も死にます」
「…わかった。ゴメン」

そういうとゴンは釣り竿を引き、自身の鞄に仕舞った。

「おじさんの事、全然考えてなかった」

こういうところやっぱり、ゴンは優しいんだよね…。

「…ゴン君」
「うん?」
「もう一度、私が試しの門を開けます。今度はミケを正面から見てください」

そう言われ導かれるように、再び門が開かれ、私達も一緒に入ることになった。

「!!」

おじさんが「ミケ-!」と呼ぶとゆっくりと顔を出した大きな体に鋭い爪が目立っていた…。 これが、ミケ…なんの感情もない。本当に命令されたことだけを忠実に守るだけの狩猟犬は、ただ真っ黒な瞳をしていた。

「…ゴン君、こいつと戦えるかい?」

ゴンは、ぶんぶんと大きく首を横に振る。
「いやだ、怖い。絶対戦いたくない」
寂しい、悲しいという感情すら感じないミケの瞳は、暫く忘れられそうになかった。

「こちらへどうぞ」
「え?」
「すぐ近くに私ら使用人の家があります。泊まって行きなさい」

使用人の家…そう言われて、実際に行ってみるとこれまた凄い。ドアは片方200キロ。スリッパは片方20キロ。湯のみだって…

「20キロ…」

ありとあらゆる家具が体を毎日鍛えるために作られているみたいだ。でも、何が一番悲しいって…私がこれらを軽々しく持ってる事だ…。

「もしよろしければ、この家で特訓していきなさい」

確かに、このまま山に向かっても…ゴンは納得しないだろう。

「君達なら、1ヶ月で1の門を開けられるようになるかもしれないよ」
「試されるのは不本意でも、他に方法がないなら…」
「やるしかねーな」
「お世話になります!」
「寝る時はこれを着て、まずは上下50キロから始めましょう。あ。でも、お嬢さんは、もう少し軽いのじゃないと難しいか…」

重りの入ったチョッキを私達に渡そうとした時、女性の私に配慮してか、重りを抜こうとする守衛さんに私は声を掛ける。

「あ!あの、ちょっといいですか?」
「はい?」
「私。明日、1のドア開けてみてもいいですか?」
「え…?」
「「…ぇえええ!」」

その場にいた全員が、私の方を向いて声をあげたのだった。

「正気か?!」
「無茶だ!」
「そうだよ!片方2トンだよ!」
「大丈夫だと思う。私、昔、おじいちゃんに10キロからやらされたから」
「いや、しかしですね…」
「やらせて下さい!」
…」

今まで、おじいちゃんにいっぱいいっぱい怒られてきた修行の記憶が走馬灯の様に頭に流れる。

「私に任せて。ゴン」
…」
「キルアが、心配だよ…」
「…そうだな」
「おい!」
「大丈夫だ。の強さなら」
「クラピカ!」
「うん。、女の子なのに凄く強いもん!きっと開けられるよ」
「ゴン!」
「お前ら、本当に甘すぎだぜ!…しゃあねぇな、やるだけやってみろ」
「レオリオー!ありがとう!!」

私は勢いよくレオリオに抱きついた。

「だー!ったく!!」
「分かりました…明日、やってみるといいでしょう」
「ありがとうございます!」


--翌日

「無理しないでね」
「うん」

私は、再び大きな門を目の前にした。実のところ、ゴン達にはああ言ったが、私の筋肉はそんなにある方じゃない。 特訓しても、ほとんど人並みより少し強い程度だった。それは自分が一番よく知ってる。
だけど、力の入れ方次第で開けられるはずだ。これは、今までの修行で何回もぶち当たった壁だから…。

「…絶対に開くよ」

私はコンコンと二度壁を叩いた後、グッと力を入れた。

「(お願い!開いて…!)」

ゴ、ゴゴゴォオ!!

「あ」
「開いた!開いたよ!!」
「うん!」

パッと、私が手を放すとドアはバタリと閉まった。

「1の扉とはいえ、女の子がたった一人で開けるとは…」
「なんつー怪力」
「失礼な!経験と言って頂戴!それにこういうのは慣れなんだよ!力の入れ方があるの!」
「いや、しかし凄いことだ…」
「なんかクラピカにそう言われると照れちゃうよ」
「でもこれで堂々と中に入れるな」

私達がそんな会話をしていると、守衛室の電話が鳴り響いた。守衛さんは慌てて電話の方へと向かっていく。

「は、はい!こちら守衛室…ええ。え?!」

守衛さんが電話を切ると、困惑したような表情で私に近づいてくる。

「えっと…さん、ですかな」
「はい?」
「このまま、真っ直ぐに道をお進みなさい」
「「え?」」

守衛さんの言葉にゴンを含め、私達は大きく目を見開く。

「中でご主人様がお待ちだそうです」
「え!入っていいの?!」
「ええ…ただし、さんお一人で来るようにと…」
「はぁ?!なんだそりゃ!」
「いやー、あたしにも、よく分からないんですよ。なんせ、詳細は聞かされていないもので…」

ご主人様って…確実にキルアじゃないことは確かだ。誰が、一体…どうして、私を…?

「わかった。いく」
「おいおい!一人でいくつもりか?!罠だぜ!」
「そんなの分かんないよ」
「そりゃ無茶だぜ!」
「大丈夫!ゴンの言うように友達の家だもん!殺されたりしないよ」

そういうと、「わかった」というゴンにレオリオとクラピカが驚いた顔をする。

「ゴン!いくら何でも…!」
は強いもん!それに俺が電話した時、あんな頑なに入れてくれなかったんだよ。殺すつもりでだけを呼んだとは思えないよ」
「確かにそれは一理あるが、他に目的があるとすればなんだ?だけを中に呼ぶ理由がない」

クラピカの鋭い言葉にゴンと私は、うっ…と喉と詰まらせる。

「それは俺にも分からないけど…」
「でも行ってみればキルアの様子が分かるかもしれないよ!」
「だけどリスクが高すぎる」
「大丈夫!こんなに近くに居るんだもん。私に何かあったら、ゴン達が助けに来てくれるんだよね?」
「!もちろんだよ!になにかあったら俺、すぐに駆けつけるよ!」
「ゴン…ありがとう…」
「だからを行かせてあげようよ」

ゴンの前向きな言葉にレオリオとクラピカは、渋々と行ったように「わかった…」と頷いてくれた。

「俺たちは早くに追いついて、扉を開けられるようになろうよ!」
「ちぇっ、折角楽に入れると思ったんだがなぁ」
「毎日携帯で連絡入れるね」
「危ないと判断したら、直ぐ守衛室に戻るんだぞ」
「気をつけてください」
「うん!…じゃあ、行って来ます」
「絶対に真っ直ぐですよ!」
「はーい!」

こうして私は、ゴン達より一足先にキルアの様子を見に向かった。

「…キルア」

どうしてるのかな?