19話 こんにちは!ゾルディック家
真っ直ぐ、真っ直ぐって言われたけど…。
「どこよ!ここは!」
道に沿って真っ直ぐきたはずなのに、なかなかな建物らしいものは見えてこない。
私が道に迷ったのかな?と首を傾げつつも歩いていると、ガサガサッ!!と草が揺れた。
「っ!」
…誰かいる?
「だ、だれ?!」
私は思わず手持ちのハンマーに手を添える。
「様、ですね?」
「…あなたは」
黒い正装の若い男性だが、殺気は感じない…。ここの執事さんだと瞬時に悟った私はすっと構えていたピコハンから力を抜く。
「イルミ様よりお聞きしております。どうぞこちらへ」
「…え?」
今、"イルミ様"って言った?
疑問を持ちつつも、私は、執事さんであろう人にどんどんと奥のほうへと招き入れられた。
「いらっしゃいませ」
「カナリア、私はこのまま様を屋敷にお通しする。支持はまた追って連絡するが、あとの者は誰も通すな」
「…かしこまりました」
私と同い年くらいだろうか。"カナリア"と呼ばれていた執事の恰好をした女の子が門の近くで丁寧に私に頭を下げ、思わず釣られるように私も彼女に頭を下げる。
「えっと…すいません。さっきの彼女は…?」
「ああ、彼女はうちの執事です。まだ幼いので見習いですが。侵入した外敵から門を守ってもらっています」
「そうなんですか…」
年齢も私と変わらないくらいの子がしっかり仕事してて、えらいなぁ…。 なんて思いながらも、山なりに暫く歩くとお城のように大きな建物が目に入る。
「あの、ここは?」
「屋敷への入り口です」
「え。あの…殺し屋さんの隠れ家って聞きましたけど、私にこんな内部の構造見せていいんですか?」
「構いません。ここは外交用で特別なお客様をお通しするルートの一つに過ぎませんし、なにより様を指定の部屋までご案内を…とのご命令でしたので」
「…イルミ様の?」
「はい」
あははー…私、イルミさんになんかしたかな?
いや、とくに悪いことはしてないと思うんだけど… はっ!まさか、わざと名前を間違えたのを根に持ってるとか?!
「こちらでお待ちください」
執事さんに連れてこられた大きな部屋で私はぽつんと取り残された。
随分大きな部屋だけど…客間、なのかな。っていうか本当に大きいな。
殺し屋さんって、そんなに儲かるんだろうか…?
「……」
でもこの部屋、窓はない上に密室になってる…。 やっぱり今のうちに逃げるべき?うーん。だめだめ!キルアに会わせて貰うまで帰れない!
「暇だし、ゴンたちにメッセージ入れとこうっと」
私がメールを打ち終わった瞬間、ドアがバン!と音を立てて勢いよく開く。
「ひっ!」
「まぁー!あなたがさんね!」
だ、だれ?!
お姫様みたいな服着てるし、なんか変な機械つけてるのに包帯巻いてる。 お化け…じゃないだろうし…。
「あ、あのー…」
「あらあら!怖がらないで下さいね。イルミに聞いてますから」
「は、はぁ…」
戸惑う私の顔を覗き込むように、機械音をジーと立てながら女の人は私を見つめている。
「…私はキルアの母です」
「え…お母様?!」
「あなたにお母様呼ばわりをされる筋合いは御座いません」
「じゃあ、おばさ…」
「誰がおばさんですか!」
「ごめんなさい!すいません!」
じゃあ、なんて呼べばいいのよー!しかもなんか、怒っていらっしゃる?なんでー?!!
「あなたが、うちのキルとお付き合いしていらっしゃるというさんかしら?」
「(キル?…ああ、キルアのことか…)」
キルア、家族の人にはキルって呼ばれてるんだ。ってか、ん?お付き合い?あぁ、友達って意味かな?
「はい。まぁ…ハンター試験の時に知り合って…」
「んまぁ!やっぱり!」
また言葉遮られた!
「(イルミが言ってたことは本当だったんだわ!だけどそうなると…)」
キキョウは何かを考えるようにを見ている。 その理由は、がここに連れてこられる少し前のことだった。 キルアの母であるキキョウには、イルミから一本の電話が入っていた。
「どういうこと?が血統証付きって、言ってたよね」
「ああ。彼女のこと?匂いだよ。正確には、香りというべきかな」
ヒソカの質問に対して、イルミが携帯を見ながら答える。
「香り…。そういえば、微かにから甘い香りがするよね」
「俺、昔仕事の関係でさ。とある王族の一人を殺害するよう依頼された時に聞いたんだよね。彼らの特徴は、門外不出の香木から作られた甘い薔薇のような香りを髪に纏っているらしいって。その香りこそが王族という証らしい」
「へぇ。君にしては、随分ロマンチストな話だね」
「王族として生まれた子に香水を拭きかけその香りを纏わせる。そして一度付けると生涯死してもなお、その香りは消えることがないらしい。もちろん、そんな永続的な香りを纏わせる製法は王族のためだけに長年研究して作られた宝であり、トップシークレット。故に貴重な香りを纏った高貴な彼らの髪は、人体収集家からは喉から手が出るほど欲しい存在だ」
イルミは息を吐くと、ヒソカの方を見る。
「…そう。つまり、なぜか彼女はその時と同じ匂いがしたっていうこと」
ヒソカが驚いた様に目をぱちくりとさせるも、イルミは「あーやっぱり」と携帯を眺め、呟いた。
「"=ネテロ"。ハンター夫婦から引き取った養女ってことになってるけど、裏の筋から調べてみると、そのハンター夫婦に娘なんて居ないんだよね。でも流石にこれ以上は情報掴めないか」
「…君、をどうするつもりだい?」
「安心してよ。彼女に関しては、正体が分かったところで殺すようなことしない。それに俺はこうみえて家族思いなんだよ。なにより、母さんが好きそうだし」
そう言うと、イルミは再び携帯をに当てる。
「あ、母さん?俺だけど」
『なぁに?イルミ。キルならあなたのおかげで、とっくに帰ってきてるわよ』
「そうじゃないよ、言い忘れてたことがあってさ。そっちに、何人か来てるよね?」
『ぇえ、報告が入ってるわ。ゴンとか言う子達ね』
「その中にいる女の子だけどさ」
『…女の子?』
「うん。多分だけどキル、その子のこと…」
『まさか、すでにお付き合いを?!』
「いや、それはないと…母さん、聞いてる?」
『んまー!大変!』
「(全然聞いてないけど、いいか)でも、これがなかなか面白い子でさ。その子の情報はあとで送るけど、能力値、血筋共に問題ないどころか優秀だよ。そっちでも確認出来たら家に上げてみてよ。あとは任せるからさ」
『…わかったわ』
キキョウはを見定めるように見つめる。
「(…本当にこんな子が、イルミの言っていたような子なのかしら?だけど試しの門を開けてみせたのは事実。あら、それによく見ると…写真より可愛い子ね)」
「(こわいよー…)」
「さん、うちのキルとはどこまで?」
どこまで…ってなに?あ。そういえば私、どこまでキルアと一緒にいたんだろう?
あ!最終試験の…あれ?
そうだ!私、その時ネテロ会長に眠らされてたから全然、記憶にないんだよね。
「えっと、すいません。私、最後気を失ってたみたい…で、ぇえ?!」
またしても言葉を遮られた私は、突然キルアのお母様に肩を掴まれた。
「ちょっと来なさい!」
「はぃ?!」
この二人の会話が全く噛み合っていないことに気付く者はいなかった…。
「(私、どうなるのー?!)」