Memory of The First Love -越前リョーガ-


今、私達は大富豪である桜吹雪彦麿の所有する真っ白な豪華客船『フラワー・ストーム』の船上にいた。

「わー!風が気持いいー!」

は一人、デッキの上から潮風に高い位置でポニーテールにした髪を揺らしながら青い空と、きらきらと光る海、そして客船上にある豪華なプールを眺めていた。

「おーい!ー!」

桃城は、一階のデッキから二階のデッキに居たを発見すると、大きくに手を振る。

「なにー?」
「今からテニスコートに行って練習試合すんだけどよー!お前も行くかー?」
「うーん…。パスー!私、もうちょっと船内を見て回りたいから!」
ちゃん一人で大丈夫ー?!」

桃城と一緒にいた英二先輩も、二階デッキのに聞こえる様に大きな声で話す。

「平気です!」
「じゃあ、何かあったら連絡しろよー!」
「分かったー!頑張ってねー!」

桃城と英二に、無理矢理手を引かれているリョーマを目にした後、も船内に行こうと足を進めた。

「でも本当、部屋がいっぱい…。迷子になっちゃいそう」

は、そんなことを思いながらもデッキの窓から船内を覗きつつも船内に入れるドアへ向かって歩いていた。 その途中で見知らぬ男とすれ違った瞬間、お尻に違和感を感じたは、ゾクリとした嫌な感覚が走り体を硬直させた直後、素早く振り払うかのように勢いよく後ろを振り向く。

「っ!なに?!…え?」

大声を上げようとしただったが、振り返った瞬間に自分の目の前にいた人物には、思わず大きく目を開いた。
その男は、長身で黒髪で、大人びたと整った顔をしつつもどこか挑発的な瞳をしているが、見知らぬ男性のはずなのに彼は、がよく知る人物と雰囲気がよく似ているのだ。

「お、思った通り。ガキにしちゃあ、いい体してんじゃねーか」
「なっ!あ、あなた誰よ!」
「俺か?越前リョーガだ」

その言葉を聞いた瞬間、の時間がぴたりと停止した。 彼は、なぜ自分の名前を知っているんかという以上に気がかりなのは、"越前リョーガ"という名前だった。

「越前、リョーガ?」

彼を一目見た瞬間から、リョーマと雰囲気がよく似ているとは思っていたが、苗字が一緒なだけでなく名前まで似ているとなると、もはや何が何だか分からない。 なんとも頭が痛くなってきそうな話だ。

「お前、って言うんだろ?」
「え。あ、はい…そうですけど」
「よし!なら、俺と一緒に行こうぜ!!」
「は?」
「船内を案内してやるよ」

越前リョーガ、と名乗る妙な人物がそう言っての肩に手を回すとはジトリと疑わしそうな表情を浮かべる。

「…新手のナンパですか?」
「まぁ、似たようなもんだな」
「なら丁重にお断りします」

は、パチンと肩に回されたリョーガの手を払いのける。

「おっと!えらく冷たいじゃねぇか。
「さっきからって…。勝手に人の名前を気易く呼ぶのやめて下さい」
「いいじゃねーかよ。

が、ついに無視をして早歩きでスタスタと歩き進めるも、ずっとの後ろからついて名前を呼んでくる。

「待てって!ちゃーん!」
「っー!もう!なんなんですか?!そもそも私、貴方に名乗った覚えは有りませんけど!」
「何言ってんだ。さっき、お前のお友達が大声で呼んでたじゃねーかよ」
「だからってねー!」
「いいから、ほら。ついてこいよ!」
「え?ちょ、ちょっとー!」

無理矢理、越前リョーガと名乗る彼に手を引かれては、船内へと走らされるのだった。

「こっちは、ダーツにカジノだ。すげーだろ?」
「は、はぃ…まぁ…そうですね…」

リョーガに手を引かれて船内を見て回っているは、「一体自分は何をやっているんだ…」と言った様にため息をつく。 押しに弱い性格なのは自負しているが、どうもそれ以上に、目の前の彼の容姿がリョーマと似ていてのテンションが狂わされていた。

「(まぁ、性格は全く似てないみたいだけど…)」

は疑わしそうな目でリョーガを見ると一人の女性がリョーガに手を振りやってくる。

「リョーガ!今からちょっと付き合わない?」
「わりーな。先約があるんだよ」
「えー!ざんねーん!」

そう言って、ドレスを着た綺麗なブロンド髪の女性の頬にキスをしてその場を去る。しかし、先ほどから声を掛けてくる女性は後を絶たない。 リョーガといる時間は短いはずなのに、この同じ光景とやり取りをは、何度も目にしている。

「私なんか可愛げの無い子供を相手してるより、美人な方と一緒の方がいいんじゃないですか?」

が呆れたようにそう言うと、リョーガはニヤリとした笑顔で詰め寄り、をからかう様な口調で言う。

「おっ!ヤキモチかー?ちゃん」
「断じて違います!」
「ちぇっ、ノリが悪ぃな。冗談だよ」
「そういう気分じゃないんです」
「ほら、ガキの癖に妙な遠慮してねぇで行くぞ」

だからそれも違うってば…とが思うのもお構いなしに、リョーガはの頭を撫でて、楽しげな笑みを浮かべて見せた。

「…え」
「ん?どうした?」

は、一瞬だがそんなリョーガにリョーマの面影を重ね合わせる。
それだけ彼はリョーマに似ていると言う事か…とは、ふと考え込んでしまう。

「(ちょっと待って…リョーマとこれだけ似てるってことは…)」

大人びた表情に、高い身長、そしてなんといっても整った顔とスタイル
他の女の人が放っておかないに決まっている。現に何人もの女性がリョーガに話しかけているのだ。 は、一気に不安になる。

「(もしかしたら、リョーマだって…駄目よ!駄目!絶対駄目!)」

もしリョーマが大きくなって、目の前にいる彼のような性格になってしまったら?
もし今もリョーマがたくさんの女の人に囲まれていたら?
なんて嫌な想像をしてしまったは、その思想を取り払うかのように首を大きく横に振る。

?気分でも悪いのか?」
「あ、だ、大丈夫!あの、私、テニスコートに行きたいんだけど…」
「ああ、いいぜ。俺もそろそろ行こうと思ってたとこだしな」
「え?」
「練習だよ、練習」

そこでは聞かされることになる。 越前リョーガという人物の正体について…。