Memory of The First Love -少年と少女-
「ここがテニスコートだ」
「すごーい…」
観客席の上からテニスコートを見せられたは、その広さと豪華さに感嘆の声が漏れた。 その上、そんなコートで大勢の観客がいる中、相変わらずのテンションでリョーマ達は練習試合を繰り広げている。 そんな彼らの様子を見ての表情は、一気に明るくなった。
「お前はここで待ってろよ」
観客席からコートへと入れる扉の前に連れてこられたは、リョーガにそう言われて思わず足を止める。
「すぐにラケット持ってくるからよ」
「あ、はい。でも、私は…」
「お前もコートに入れてやるよ」
「え?でも、私は選手じゃないですし」
「なんだよ。チビスケ達のこと見に来たんじゃねーのか?」
「チビスケ?」
「ぁあ?なんだ、お前まだ分かってねーのか?鈍いやつだなー」
「なっ!」
リョーガの言葉に、がなにかしら言い返そうとする前に、リョーガは口角を上げてニヤリと笑う。
「俺は、越前リョーガ。越前リョーマの兄貴だ」
「リョーマ?リョーマって…え…ぇえええ!」
船上での声が大きく響き渡った。 リョーマに兄がいると言う事を聞いていなかったとはいえ、 越前という苗字とリョーマとよく似た容姿で少しは疑問をもつべきだった…とは自分の馬鹿さを嘆く。
「お前、青学のマネージャーなんだろ?」
「あ…え、えーっと…さ、先ほどは失礼しましたー!」
「は?」
は、突如リョーガに深く頭を下げる。
「わ、私、リョーマのお兄さんに失礼なこといっぱい言っちゃって…あの…」
第一印象が最悪で、リョーマの兄だと知らなかったとはいえ、生意気な発言やら失礼な行動を取ってしまった。 ど、どうしよう…と、は今までの自分の行動を後悔する。
「ははは!別にいいって」
「で、でも、私…今、家でお世話になってるのに…」
「お世話?」
「あ…私、です。南次郎さんの家で、下宿させて頂いてます」
「?」
リョーガは、じっとの顔を凝視すると「わりぃ、ちょっと…」と言いながら、一つに括っていたの赤いリボンがついた髪どめを解く。
「あ、ちょ、ちょっと!」
ポニーテールにしていたの長い髪が解かれ、さらりと背中でなびく。 そんなを見て、目を大きく見開き「思い出した!」と言わんばかりな表情をするリョーガは、を指さして声を上げた。
「ああー!お前、あの時よく泣いてたガキか!」
「え?」
「何年も経ってる上、髪なんか括ってるから気付かなかったぜ」
「私を知ってるんですか?」
「知ってるもなにもお前、ガキの頃、アメリカの家に来たことあるだろ」
「…え、ええー!そんなの覚えてない!」
「まぁ、餓鬼だったんだから覚えてなくて当然だな。確か、お前の親父が連れてきたんだよ」
リョーガは、懐かしげに口元をゆるめてに話す。
「うちの親父に娘を自慢しに来ただけだとか言って、何日かしたら直ぐに帰ったけどな」
「そ、そうなんですか」
腕を組んで、リョーガは記憶を探るかのように「確かお前の親父、医者だったよな?」とに質問を投げ掛ける。 は、戸惑いつつも素直にうなずく。
「やたらとお節介焼きな癖に、俺らガキ相手に容赦なく関節技決めてきたからな。よく覚えてるぜ」
とリョーガは笑いながら答えた。
「……」
その時には確信する。 この人は、本当に私の父を知っている…と。遊びが好きで、自分自身も子供のような性格、そのくせ、放っておけない私の父の性格は、調べただけでは分からない。 実際に父と接しなければ分からないことなのだ。しかし、そんな彼に対して自分は、全くそんな小さな頃の話を覚えていない。 でも彼の話を本当だとするのなら、私は小さな頃のリョーマにも会っているはずだ…。 は、自分が覚えていないことが少しだけ悔しくなった。
「しかし、お前がだとすると…参ったな」
「え?」
「あー…いや、なんでもねーよ。それよりチビスケ達を待つなら…」
「私、観客席で見てますから」
「いいのか?一緒に連れてってやってもいいんだぜ?」
「いえ、大丈夫です」
「そっか…じゃ、またあとでな。」
そう言って、リョーガは私の頭を撫でるとラケットを取りに行ってしまった。 は、リョーガが去った後、撫でられた頭に手をそえて物思いにふけっていたが、ふとあることに思い出す。
「…あ!私のヘアゴム!」
リョーガにヘアゴムを取られたは、返してもらうのを忘れてた…と深くため息をついたのだった。