Memory of The First Love -少女の面影-


観客席でリョーガ達やリョーマ達のことを見ていたは、観客席を出て外のドアの前でリョーマ達を待っていた。

「あ、リョーマ!」

コートから出てきたリョーマ達を目にしては、大きく手を振る。

ちゃーん!」

そんなに菊丸も、大きくに手を振り返しながらに駆け寄る。

「聞いて聞いて!大ニュース!大ニュース!」
「リョーマのお兄さんのことですか?」
「なんだお前、知ってたのかよ」

桃城は、そういうに対してつまらなさそうに口をとがらせる。

「ううん。さっき会って、本人がそう言ってたから」
「本人ってまさか…」
「越前リョーガって言うんでしょ?」
「……」

リョーマは眉間にしわを寄せて、長い髪をなびかせるを見た。

「リョーマ?どうかしたの?」
「…髪」
「え?」

リョーマにそう言われて、は咄嗟に自分の髪に手を触れた。

「本当だ!ちゃん、さっきまで結んでたよね?」

英二達もリョーマの言葉でが先ほどと髪型が違う事に気がつく。

「あ、うん。ちょっと気分転換に」
「…なんかあった?」
「ううん。なんでもないよ」
「ふーん」

そう言ってはにかむを、リョーマはどこか疑わしそうな瞳で見つめた。


すっかり暗くなり、三日月が空を照らしだした時刻。
青学のメンバーは皆、豪華客船のディナーパーティーに呼ばれていた為、 着なれないスーツを着させられたリョーマは、の部屋の前に立っていた。 先輩達に言われてを迎えには来たものの、ノックをしようとするとリョーマは大きくため息が出る。

「(バレバレだって…)」

は、なんでもないという風に笑顔で言ってのけたが、リョーマからしてみれば何かあったことはを見ればバレバレだった。
自分には、幼い頃の微かな記憶しか残っていないが、兄である越前リョーガに会ったと言ってから、はどこか元気がない。一緒にいてもどこか上の空だ。
その上、がわざわざ綺麗に結んでいた髪を下ろしていたことも気になる。
だけど聞き出そうにも本人が話したくないことを無理矢理聞き出すなんて強引な真似はしたくない。

「めんどくさい感情ばっか」

リョーマは、の部屋のドアの前でボソリと呟いた。
に出会って、付き合いだしてからも、それは変わらない。
寧ろ、増えたぐらいだ。なんて皮肉に思いつつも、いつまで経っても温かい感情にリョーマは少しだけ口元を緩めた。



リョーマが、コンコンとの部屋のドアをノックすると、 の声が直ぐに返ってくる。

「はーい」

そして暫くするとドアが内側から開かれ、出てきた笑顔の彼女に思わずリョーマは大きく目を見開いた。
真っ白なワンピースドレスの上に淡い水色のカーディガンを羽織り、 長い髪を下ろしているを見たリョーマは、一瞬だが微かに脳内に映し出される幼いころの記憶の欠片が映し出された。
オレンジの木と白いワンピースを着る長い髪の少女…。
リョーマの頭の中でフラッシュバックを起こす。

「え…?」

しかし、その記憶が一体何なのか分からない。

「ごめんね!思ったより時間かかっちゃって!」

風になびく長い髪を耳にかけて、少しだけ照れた表情をリョーマに見せた。 そんなを見てリョーマは、ようやく我に返る。

「…いいんじゃない?」
「え?」
「似合ってる」
「あ、ありがとう!リョーマ!」

いつもなら絶対に言えない素直な褒め言葉がサラリとでたことに、リョーマは自分でも驚く。 どこかしら、日常とはかけ離れた豪華客船の上だという環境がそうさせているのかもしれない。

「孫にも衣装だな。チビスケ」
「…あ」

なぜかの部屋から出てきた越前リョーガ。 リョーマは、を鋭い目で睨みつけた。

「どういうこと?」
「ち、違うんだよ!リョーマ!お兄さんが部屋に来たのは、ほんの10分前で!」

リョーマに事情を話そうとするの口を後ろから手で塞ぐと、リョーガはニヤついた表情でリョーマを見る。

「男と女が部屋で二人きり…なんて分かってて話を聞くなんて、野暮なんじゃねーか?チ・ビ・ス・ケ」
「んー!んー!!」

は、ブンブンと大きく首を振り、リョーガの手をどけて否定をしようとするも、男性の力に敵うはずもなくビクともしない。 そんなリョーガに対してリョーマは、グッと拳に力を入れて歯を食いしばる。

「…遅いからきてみたけど、お邪魔だったみたいだね」
「んんーん!」
「俺、先に行ってるから」

リョーマが足早にを置いて去る。 しかし、角を曲がり暫く足を進めていると後ろから大きな声がリョーマの耳にまで届いた。

「いってー!お前、お兄様を噛むか!普通!」
「そのお兄様がなに弟に誤解を生む会話をしてくれてるんですか!」
「俺には、お前らみたいなガキに分かんねーことが色々あるんだよ」
「そういうのを屁理屈っていうんですよ?お兄様」

嫌みたらしく「お兄様」という愛称で呼ぶにリョーガは、残念そうに頭を抱えてため息をつく。

「お前…子供のころは素直で可愛かったのになぁ」
「悪いですが、記憶に御座いません」

に容赦なく指を噛まれたリョーガと、リョーマに誤解をうませて怒る 二人の喧嘩越しの声が、船内中に響きわたっていた。

「…なにやってんだか」

そんな二人の会話を耳にしたリョーマは、ため息をついてを置いて進んで来た道を戻る。

「そもそも、なんで私にそんなに構うんですか?」
「いいじゃねーか。俺が、昔のチビスケの話をお前に聞かせてやるって言ってるんだからよ。興味ねーか?」
「そ、それは…」
「聞かなくていいから」
「「っ!」」

リョーガとは、同時に背後から聞こえてきたアルト声に肩をビクつかせた。

「リョ、リョーマ…どうして…」
「あんなに大声で喋ってれば、嫌でも聞こえるし」
「そりゃそうだ」

リョーガは「仕方ねーか」と言い、の頭に手をそえると「先に行ってるぜ」と言い、リョーマの横を無言で通り過ぎた。

「…リョーマ」
「あんなの冗談に決まってるじゃん」
「え?」
「ただやっぱりムカついたから、あいつの言葉に乗っただけだって」

そう言ってリョーマは、の手を掴んで会場へと足を進める。

「俺、のことちゃんと分かってるつもりだけど…違うの?」
「…違わない」

は、握られたリョーマの手に力を入れる。
素直にリョーマが信じてくれていることが嬉しくて、思わず涙が出そうになる。
この手を、絶対に離したくない。
そう心に誓わせてくれたのは、誰でもない君なのだから…。


「ようこそいらっしゃいました。青春学園テニス部の皆さん」

皆がテーブルにつくと桜吹雪は、淡々とにこやかに話を進めた。
テーブルの上には豪華な食事が私達の前に並んでいる。
そして、そんなディナーの席には、今回のエキシビションマッチの対戦相手である桜吹雪のチームというあの越前リョーガ達も同席していた。

「……」

桃城が黙々と出された料理を食べ進めるなか、は、疑わしそうに料理を睨みつけた。


「なーんか、料理あんまり美味しくなかったなー。見た目は、すんごい豪華で美味しそうだったのに」

ディナーパーティーを終えて会場から出た後、菊丸はそう言って残念そうにため息をついた。

「挨拶が長かったから、せっかくのご馳走がさめちゃったんじゃないっすか?」
「いや…あれはレトルトの味だ」

桃城の言葉に、河村はすぐさま指摘する。

「え…。まじっすか?」
「私もそうだと思うなー」

海堂が驚いた声を上げるなか、河村を擁護するようにはボソリと呟く。 するとそんなの言葉を聞いた桃城は、大きく声をあげた。

まで何言ってんだよ!豪華客船のディナーにレトルト料理なんて普通ありえねぇだろ!」
「そうだけど…実際、質量もないし、手作りにしては味が薄すぎるもの」
「うん。俺もそう思う」
ちゃんと河村寿司二代目のタカさんがそう言うんだ。間違いなさそうだね」
「じゃあ桃の言うとおり、普通じゃ、あり得ないことが起こったってこと?」
「うーん…そう、なるね」

不二の言葉に同意した菊丸がそう疑問を投げ掛けると、一同は何も言わずに考え込んだ。


「疲れちゃった…」

ワンピースドレスから短パンにTシャツと言う、なんとも身軽な格好に着替えたは、 グッと部屋で大きく背伸びをして、ベッドに倒れ込んだ。

「越前リョーガ、ねー」

リョーマの兄だと言い、なにかとに絡んでくる。
リョーマに問いただしても「違う」の一点張りで何も言ってくれない。
だけど、あのリョーマに似た雰囲気と容姿、そして真実であろう過去の記憶…。
胡散臭いが、の部屋にやって来たときも幼いころのリョーマについて話をしてくれた。
自分の父の性格もよく知っていたリョーガが、嘘をついてる様には思えない。嘘だとすれば、話しが上手すぎるのだ…

「あー!もう訳わかんなーい!」

がむしゃくしゃと考えるのをやめてお風呂に入ろうとした時、の部屋のドアがノックされた。

「はい!」
ちゃん、ちょっといいかな?」
「大石先輩?」

ドアを開けた瞬間、深刻な眼差しを見せる大石に、は嫌な予感がするのだった。